退職・解雇の法律関係

二、解雇制限といわれるのは次のようなものです
　法律上の解雇制限
　　1.民法による解雇制限　
　　契約期間の定めがない場合- 2週間前に申し出ること等（民法627条）
　　2労働法による解雇制限　　　
　　 a 30日前に解雇予告すること、または解雇予告手当を支払うこと。（労基法20条）　
.......b 業務上災害で休業中の者及び産前産後の休業期間中の者と　それぞれ　その後30日　は解雇できない（労基19条）
.......c 思想・信条等に基づく差別的解雇の禁止（労基法3条）
.......d 不当労働行為としての解雇禁止（労働組合法7条）
.......e労働基準法による解雇制限(解雇権の乱用)
　..3育児介護休業法による制限
　　育児・介護休業を請求したこと・休業したことを理由に解雇できない
自主規制による解雇制限
　1 就業規則による解雇制限
　　就業規則に懲戒解雇・普通解雇・諭旨解雇・手続順守義務が規定されているとき
　　はその規定に従う義務がある。　
　2 労働協約による解雇の制限
理論上の解雇制限　
　1 権利濫用(民法1条)による解雇制限
　2 公序良俗(民法90条)による解雇制限　

次に主なものを解説していきます。

1．（労基法20条）　　これは、比較的よく知られていますね。
　　解雇しようとする場合は、30日前に解雇予告をするか、または30日分の解雇予告手
　　当を支払う必要があります。
　①解雇予告するときは、「なか、30日」と覚えて下さい。例えば、6月30日付けで解雇す
　　るには、5月30日までに本人に　解雇予告通知が到達していなければなりません。
　
　1予告到達日の翌日から退職日までに30日間ない場合は、足りない日数分の予告手当
　　を支払う必要があります。
　2解雇予告は口頭でも有効ですが、内容証明郵便などの文書による方が後日の紛争解
　　決に有利です。
　3行方不明者に対する予告は、原則として裁判所を介して公示催告により行います。
　
　②即時に解雇しようとするときは、その従業員の平均賃金の30日分の解雇予告手
　　　当を支払う必要があります。

＜平均賃金の計算式＞
　原則

　解雇予告をした日の直前の賃金締切日から遡って3か月の賃金
　　　　　　　　　　　　÷その間の暦の総日数

　③例外として次の場合は、解雇予告・解雇予告手当は不要です。
　1地震などの天災地変で事業ができない時
　2従業員の責めに帰すべき事由で解雇する場合
　（1．2とも、あらかじめ労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることが必要）
　　　　　　　↓
（予告除外認定が受けられる事例）
・原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促にも応じない場合
・軽微なものを除き「会社内」で、窃盗・横領・傷害等刑法犯に該当する行為を行った時
・軽微なものでも、あらかじめ会社が不祥事件について不正防止策を講じていたことが
　客観的に認められるにもかかわらず、同様の行為をした時
・事業場外の刑法犯事例でも、それが会社の信用を著しく損なったり、取り引き関係に悪
　影響を与えたり、労使間の信頼関係を損なった時
・賭博や風紀を乱したことなどにより、他の従業員に悪影響を及ぼした時
・行為が社外で行われた時も、それが著しく会社の名誉・信用を失墜するもの、取引き
　関係に悪影響を与えるもの、労使間の信頼を損なうもの
　
これに類するもの以外はなかなか除外認定が出されません。
私は30日前に予告しておいたほうが無難だと思います。

　④　解雇の特例（労基法21条）
　1 試用期間中の者で採用14日以内の者
　2 日々雇入れられる者
　3 2か月以内の期間を定めて使用される者
　4 季節業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
　　→これらは、解雇予告・解雇手当が不要です。

2．（労基法19条）
　a　業務上災害（通勤災害は除く）により休業中及びその後30日は解雇できない。
　　（療養開始後3年経過後打切補償を行った場合、または3年後労災保険の傷病補償
　　年金が支給された場合は解雇できる)

　b　出産以前6週間・出産の翌日から8週間の休業期間中及びその後30日は解雇でき
　　　ない。
　　どちらも、懲戒解雇等を理由とする解雇さえ、できない。
　＊ただし、地震など天災地変、その他やむを得ない理由で事業の継続ができなくなっ
　　た場合に、労基署署長の認定を受けたときは解雇できる。

3．（労基法3条）
　　思想・信条等に基づく差別的解雇は禁止されています。

4．（育児・介護休業法）
　育児休業・介護休業を請求したことまたは育児休業・介護休業をしたことをもって解雇
　できません。
　　育児・介護期間中でも懲戒解雇などを理由とする解雇はできます。

三、懲戒解雇の有効要件
　懲戒解雇するには、以下の要件のすべてをクリヤーすることが必要です。

＊労基署は解雇の民事的効果（解雇の有効・無効）を判定できる立場にはなく、労基署
　で問題にならなかったから解雇が有効だと言う理屈にはなりません。
　民事裁判で争われた場合はこの民事的効力が問題になります。

①罪刑法定主義の原則
　行為の時に就業規則等に規定のない事項については懲戒できません。
_また、似たような事例だからといって、規定にない事項については　懲戒処分できません
　(類推解釈禁止)。
②平等待遇の原則
　人によって差別的に処分することはできません。
③相当性の原則
　軽微な事案について、即解雇、などということはできません。処分の対象となる行為と
　処分の重さはバランスの取れたものでなければならないということです。就業規則に規
　定があっても同じです。
④一事不再理の原則
　一度処分した場合、新たな事実がないのに、同じ行為を再び懲戒処分に処すことはで
　きません。例えば、会社の売上をゴマかした者を減給処分にしておきながら、新たな事
　実がないのに、処分が軽すぎるからといって、改めて懲戒解雇にすることはできませ
　ん。
⑤個人責任の原則
　個人の行為に対して、連帯責任を問うことはできません。
　しかし、上司の管理責任は「上司個人」の責任を問題にしていますのでこの原則に違
　反しません。
⑥公正手続の原則
　就業規則の手続きに沿わない懲戒処分や、本人の弁解を一切聞かないなど、手続き
　的に不公正な処分は無効となります。

四、　就業現則で規定される懲戒解雇の理由は次のようなものがあります。

　①職場秩序の破壊
　　　職務命令違反
　　　出勤不良
　　　業務妨害
　　　配置転換・出向拒否
　　　非協調性
　　　職場内の非行・私行
　　　職場内の政治活動
　　　経営批判
　　　寄宿舎・寮における行為
　②会社の名誉・信用失墜
　③会社の秘密の漏洩（ろうえい）
　④兼業制限違反
　⑤職場外の非行・私行
　⑥経歴詐称

以下、主な問題について解説します。

五、職場外の非行・私行
　　判例は「従業員の企業外での行為も戒懲戒処分の対象となる」としています。
　　企業外の行為でも、社会的に非難されるような行為により、企業の名誉・信用・評価
　　を著しく損なったと、客観的に認められる場合は懲戒処分の対象となります。
　　しかし、必ずしも　具体的に業務が阻害されたり、取引上の不利益が発生しなくても
　　懲戒処分の対象となります。
　
　　懲戒処分に当たるかどうかの判断は、その行為の性質、情状のほか、会社の事業
　　の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会
　　社における地位・職種等諸事情から総合的に判断して、その行為により企業の社会
　　的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければな
　　らない。
　　　　（参考　日本鋼管川崎製鉄所（砂川）本訴事件　最高裁S49・3・15）
　
　　したがって、軽微な行為については、必ずしも懲戒処分に該当しません。
　
　《他人の住居に不法侵入した従業員の行為について》
　「会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲で行われたものであり、罰金　
　　2500円の程度にとどまったこと、職務上の地位地位も工員ということで指導的立場に
　　ないことを考えれば、その行為が、会社の対面を著しく汚したとまで評価できないとし
　　て懲戒解雇は無効であるとした」（参考　横ゴム事件　最高裁45・7・28）

六、出勤不良による解雇

〈判例は一般に、出勤不良を理由とする解雇が認められるためには〉

　①その出勤不良の程度が著しく悪質であり、
　②従業員に改善の見込みがなく、
　　　かつ、
　③その出勤不良のために事業に大きな障害が生じて使用者が従業員を解雇する以外
　　　に方法がないことが必要だとしています。

こちらを見てください　図1

〈具体的には〉

　①懲戒解雇を行うときは、その事情を十分検討して最悪の場合にだけ行うべきも
　　のである。（浜口染工事件　京都地裁S49．1．17）

　　「無届け欠勤が14日以上に及んだことだけでなく、欠勤日数の長短、欠勤理由、
　　及び届出ができなかった事情、あるいは、届出について信義誠実の原則要求さ
　　れる程度の義務を尽くしたかどうかを、企業における地位、役割などの諸点につ
　　いて考慮し、退職させなければ企業秩序が維持できない程度のものであることが
　　必要である」

　②6日間の無断欠勤と上司に対する暴言を理由とした解雇は社会通念上合理性が
　　なく無効であるとした判例。（新甲南鋼材工業事件　神戸地裁S47．8．1）
　
　「会社の就業規則には、従業員が14日以上無断欠勤した場合及び他人に暴行、
　　脅迫を加え、またはこれに準ずる行為があった場合は懲戒解雇する旨の規定が
　　あるが、6日間の無断欠勤のみでただちに懲戒解雇できないし、従業員の発言は
　　それ自体乱暴でありいささか穏当を欠くきらいがないではないけれど上司もやり返
　　し、結果会談は物分れになったことが認められるのであって、双方ともかなり興奮
　　し、一時の感情にまかせてなした口論の域をでないものと認められる。」として解雇
　　権の濫用であり解雇は無効であるとした。

　③従前、会社全体において厳格に守られていなかった欠勤、遅刻、早退等を理由と
　する懲戒解雇は無効である。（太平設備機械事件　名古屋地裁S37．5．28）
　
　「会社では、欠勤　遅刻　早退をした場合は文書によって届出をすべきことになって
　　おり、従業員は文書による届出はもちろん職場の上司にも届出なかったから届出義
　　務違反の責めは重い。しかし、文書による届出を厳格に要求して従業員に周知徹底
　　をはかった形跡はなく、従業員の少なからぬ者が文書による届出を怠っていたのに
　　これを見過ごし、また遅刻についてタイムカードが人為的に記載されていたことを
　　知らなかったことからわかるようにタイムカードを点検し従業員の出勤状態を管理
　　する熱意を欠いていたことから・‥その他の諸事実を総合すれば、19日の無届け
　　欠勤といえども解雇の原則を排除し得るものというべきである」とした。

　④タイムカードの不正打刻を理由とする懲戒解雇は有効である。（八戸鋼業事件　最
　　高裁　S42．3．2）

　　「総務部長名をもって「出社せずして記録を同僚に依頼するごとき不正在りし場合
　　　は依頼した者依頼された者共に解雇する」との告示を掲示し、その旨を従業員全
　　　員に周知徹底させていたが、従業員は、その警告を熟知していたもかかわらず、
　　　あえてこれを無視し、不正打刻に及んだのであって解雇は有効である。」

　⑤出勤率が極めて不良で3か月間で3回も出勤勧告を受けてもなお改まらずその後
　　半月所在不明の欠勤をしたこと等を理由とする懲戒解雇は有効である。（岡崎工業
　　事件　福岡地裁小倉支部　S49．8．1．）

七、整理解雇
　　不況による事業の縮小・廃止、企業経営の合理化等の原因により行われる人員整
　　理のための解雇のことをこう呼びます。(法令上の用語ではありません)

　　　最近流行のリストラのことですが、ちょっと会社が苦しくなったからと
　　　いって簡単には解雇できないということです。
　　　

　　　　整理解雇の要件（＝要件を欠くと、解雇無効となります）

　　　　　1．実質的要件

　　　　　　　①整理解雇の必要性の客観的存在
　　　　　　　　その企業においてどうしても整理解雇をしなければならない経営上の必要
　　　　　　　　が客観的に存在しているかどうか

　　　　　　　②整理解雇回避のための使用者の努力
　　　　　　　　企業が指名解雇を回避するために、例えば優遇措置を伴う自発的退職の
　　　　　　　　募集、配置転換、一時帰休、社外工の解雇、臨時雇用者の解雇などの相
　　　　　　　　当な努力をしたか

　　　　　　　③整理解雇基準の合理性
　　　　　　　ア、整理解雇の目的である「企業経営の危機を打開すること」に添った基準
　　　　　　　　　であること。
　　　　　　　　　例えば、勤務成績、技術能力、勤務年数、年齢等将来にわたっての企業
　　　　　　　　　に対する貢献度に着目した基準など。
　　　　　　　イ、従業員の生活を考慮した基準であること。例えば、扶養家族の数、転職
　　　　　　　　　の困難度、別途収入の有無等家計維持の困難性等の基準など。
　　　　　　　ウ、企業における雇用関係上の地位に着目した基準であること。例えば、パ
　　　　　　　　　ートタイマー、短期、臨時雇用者等企業との結びつきの度合いの程度を
　　　　　　　　　基準とする場合

　　　　　　　　　＊基準はできるだけ具体的なものであることが必要です。

　　　　　　　④従業員に対する説得または従業員との協議の努力　
　　　　　　　　個々の従業員に十分な説明を行い、本人の納得が得られる努力をしたか
　　　　　　　　どうか。
　　　　　　　　　しかし、従業員の同意が必要ということではありません。

　　　　　　2．手続的要件

　　　　　　就業規則などに整理解雇の手続が定められている時はその手続を順守する
　　　　　　こと。　このような手続が存在しない場合にも、その整理解雇の実情に応じた
　　　　　妥当な手続を採用しなければなりません。　　
　　　　　 こちらをどうぞ　図2
　　　　　　 (判例等は、解説の便宜上　表現などを若干変更してご紹介しています。ご了承ください)