就業規則の話

　　　　　　就業規則の話　　　　　　　　　　　　　　　　　13.10.12

「就業規則を作るといろいろ縛られて会社にとって都合が悪い」
「就業規則を従業員に見せると、今まで取らなかった有給休暇をおおいばりで取るようになって仕事が回らなくて困る」
・・・など就業規則についてマイナスイメージを持つ事業主が意外に多いようです。

就業規則をはじめて作る事業所にとっては不安なことも多いのでしょう。
しかし、就業規則は企業のルールであって、会社と従業員との契約のようなものです。
そして、労務管理のコツは「従業員をふりまわさない」ことです。就業規則によって労働条件を明確にすることが、労務管理の基本であり、最低条件です。

就業規則を作っていく中で、労働基準法や育児介護休業法など各種の法律の理解が必要になります。
私たち社会保険労務士が就業規則作成のお手伝いをしていく中で、それら法律の説明や運用のアドバイスが、必然的に重要なウエートを占めています。
「法律のとおりにやっていたら会社がやっていけない」という事業主の方も少なくありません。
しかし、キレイゴトを言うわけではありませんが、法律に従って企業を運営していくことは結果的に企業のメリットになります。目先の損得にこだわって法律に違反することは決して企業の発展にとってプラスにはなりません。

そこで、実際に企業で運用している労務制度を法律に合致したものにしていく作業が重要になってきます。
どこまでが適法で、この先は違法だという明確な知識が必要になります。労働基準監督署に問い合わせればある程度親切に答えてくれます。
私たち社会保険労務士は、法律と企業の労務管理の両方を視野に入れて作業を進めていきます。
すなわち、法律に合わない企業の制度は、形を変えて制度目的に添った形で構築しなおすという作業が必要になります。

端的な例ですが、毎月定額の給料を支払っていて、残業しても残業手当を別に計算してはいないという会社があります。
このような場合、「定額の給料に残業手当が入っている」という話をされることがあります。
しかし、労働基準監督署の調査では明確な証拠がなければ、別に残業手当を支払うよう指導されます。
この場合、就業規則で、基本給とは別に定額の残業手当を規定して「毎月の残業時間がこの定額残業手当の範囲内であれば別に残業手当を支払わない。ただし、この範囲を超えた場合は計算して差額分を支払う」という規定をしておけば、別に残業手当を支払うようにはならないのです。　　
　　
　

就業規則を作っていく中で、労働基準法等によってどの制度が必要とされているか。このことを念頭に入れていないと、その企業にあった就業規則ができないと思います。

1.退職金
退職金は、労働基準法等によって制度化が義務付けられているわけではありません。
親会社など他の会社の就業規則を参考にして就業規則を作っていると、その企業でとても支払いできないような高額な退職金が規定されていることがあります。
一旦就業規則(ないし退職金規程)で退職金額を規定してしまうと、企業が一方的に減額することはできません。就業規則は契約書のようなものですから、一方的に変更できないという理屈です。
ここに安易に就業規則作成した場合の怖い面があります。
私は退職金を規定する場合は、中小企業退職金制度等を利用して、従業員が退職する際に会社から持ち出ししなくて済むように、そこから支払われる退職金額を限度に規定するのが、会社の負担が少なくていい方法だと思っています。
退職金額は、掛け金を調整して従業員間に差を設けることができますので実用的だと思います。

2.慶弔休暇の制度
慶事・弔事の際に休暇を与える慶弔休暇の制度も法律で要求されている制度ではありません。
最近は年次有給休暇が入社半年で10日間付与されることになっていますので特にこれ以外の休暇を付与しなくても不都合はないのではないでしょうか。

3.休職期間の制度
就業規則のヒナガタには、休職期間の制度が入っていることが多いようです。
休職期間は、従業員が病気等で長期間休業する場合に「労務不能により即時解雇」という事態を回避すべく、2、3か月から1、2年間会社に在籍できる、いわば身分保障の期間を規定した制度です。
この制度も労働基準法などで規定されているものではないのですが、多くの会社で採用されているようです。
休職期間中は給料を支払わない、と規定することが一般的ですが、その間は健康保険料や厚生年金保険料などがかかりますので、その分の会社負担は発生します。

4.　月給者の賃金
「月給」のなかには、a.欠勤してもカットしないで全額支払う「完全月給」と、b.欠勤日数に応じてカットする「日給月給」(注、違う意味で使われることもあります)といわれるものがあります。
欠勤した場合に賃金を支払うかどうかはその企業の決め方に任せられています。ですから、月給者だからといって絶対にカットできない(欠勤控除できない)ということはありません。
そのことは、就業規則にはっきり書いてください。
以前、欠勤の場合理由を問わず欠勤控除しない、という規定の会社がありましたが、あるときに入社した従業員が特にこれといった理由がなくて欠勤しているので、給料を支払わないということがありました。
当然、結果的に就業規則の規定どおり全額支払うことになりましたが、このことで　安易な規定は怖いな、と思ったことがありました。　　2001.9.30
　

就業規則に関連したQ&A

1.勤務地や職種の変更を命じた場合の効力

Q.本社工場の作業員が急に辞めて、どうしても人手が必要になったので，支店で事務職をしている者に転勤を命じたら、就業規則に規定がないことを理由に転勤を拒否してきました。この場合、懲戒処分に処せるでしょうか。

A.従業員を採用するときに、勤務地や職種を特定して行うことが多いのですが、たとえば「事務職」「A支店勤務」として採用した場合、本人の同意がなく、会社側の都合で「本社」の「工場作業員」とするなど、勤務地の変更や職種の変更をしようとしても就業規則等に規定がなければできません。したがってあらかじめ就業規則等に従業員の転勤及び職種の変更がありうることを規定しておく必要があります。規定がなければ会社の都合で転勤や職種変更を命ずることができず、したがって社員に拒否されても懲戒処分に処すことはできません。
　また、不況になると会社の都合で関連会社への出向が行われることがありますが、、出向の場合は勤務状況がまったく変わることがありますので、単に就業規則で「出向させることがある」と規定しただけではだめで、出向の条件や待遇などを具体的に規定しないと効力がないという考え方が有力です。

2.支給日に退職している者への賞与支払い義務

Q.会社を11月30日に退職した者が、12月に支払うべき賞与を自分にも支払ってもらいたいと言っきましたが、支払うべきでしょうか。

A.貴社の就業規則を見せていただきましたが、
規則には
①「前期の算定対象を前年12月1日から当年5月31日まで、後期の算定対象期間を6月1日から11月30日とする」
②「各賞与は会社の業績及び本人の勤務成績に応じて、前期分を6月、後期分を12月に支給するものとし、その額は次の計算式により算出する。
　　計算式:(省略)」

と規定されていますが、いつまで在籍した者に支給するか、について規定されていません。
　この規定からは、上記算定期間に在籍していれば支給日に関係なく、退職者にも賞与を支給するものと解釈されます。

　賞与は一般的に、過去の労働に対する報酬としての意味だけでなく、将来の労働に対する期待や賞与支給日までの就労確保のねらいが込められています。
　したがって、賞与支給日にすでに退職している者には賞与を支払わない、とする企業が多いと思いますが、そうであればはっきりと「賞与の支給日に在籍しない者には賞与を支給しない」等と規定しなければなりません。

　質問の事例でも、支給日に在籍しない者へ賞与を支払わない、との明確な労使慣行がない限り賞与を支払う必要があります。
　もっとも、規則上、賞与の支給額を具体的に算出できない場合(計算式が書かれていない場合)は賞与の具体的な権利が発生していないので、退職者には賞与の支払いを拒否できる、との考え方も成り立ちますが、無用のトラブルを避けるためには、はっきりと「賞与は在籍者に支払う」と規定しておくことが必要です。13.10.12
つづく