循環器の小部屋
                        榊原循環器科内科クリニック  榊原 亨   
    

 おや、これはこれは、循環器の小部屋へようこそ。まっ、ずずっと奥へ、いらっしゃい。

 どうしました?顔色が冴えませんな。ここへ来たからには、ピタリとわけを当ててみせま
しょう!水晶球は使いませんが、この聴診器ってやつでね。どうしました、手なんか出し
て、手相は見ませんよ。ああ、血圧を測れってんですか。よくご存知で。あらま、158/92
もありますね。いつもこんなもんですか?そりゃあ、よくありませんよ。高血圧は万病の
元ってくらいでね、あれ?風邪でしたっけ、万病の元は。

 頭痛肩こりめまい耳鳴りマア、高血圧の症状といったら、こんな感じなんです
けどね。慣れてしまってると、だんだんに血圧が上がったもんだから、ぜんぜん何ともな
いって言う人も結構いますな。江戸っ子だと、人をヒトって言えなくて、シトって言うシトも
いますねぇ。じゃなくって、高血圧の症状なんて、まぁ、たいしたこともないわけなんです
けどね、何が悪いってあなた、5年10年たつうちに、だんだんに血管、この場合は、動脈
ってやつですけども、これが硬くなる。で、動脈硬化って名前になってるらしいんですよ。

 動脈ってのはね、こうー、心臓から血がざっぱざっぱと、出てきたのを、全身に送り込む
パイプみたいな、水道管みたいなもんらしいんですけどね、臓物のそばまで行くとこれが
だんだんに細くなってきますな。この細くなってきたところに、内側に引っ張りなんかでき
ると、血が通れなくなる。するってぇと、臓物に血が行かないことになります。

 あたしなんざぁ、一食抜けただけでフラフラですが、一日中栄養やら酸素がこないことに
なるんで、臓物も、もうこれは、ふにゃふにゃに働けなくなるってぇ寸法で。脳みそなら
脳梗塞、心臓なら心筋梗塞やら狭心症腎臓も悪くなりゃあ、もかすむってなもんです。
こうなると、手の施し様もないってんで、予防をしなくちゃならない。で、蘭学を学んだ医者
たちは、血圧下げろ、塩食うな、やせろ、タバコもすうなって、無理難題を吹っかけてくる
わけですな。自分の稼ぎで腹いっぱい食べて、タバコを買って、やっぱり肴は塩辛や干し
魚でないとね、餡ものなんか食べて、灘の生一本をキュッといけるもんかってんですよ。

 まぁ、そんなんですから、言われても仕方のないことばっかりやってるんですけどねぇ。
生きのいい粋な年寄りになろうと思うと、若いうちに我慢しなくちゃならないこともあるんで
すね。

 でもまぁ、血圧が高いって言ったって、ちゃんと測れた血圧じゃないと心配するには及ば
ないんで。マラソン選手なら走ってるときは、200/−以上になっているし、日本人にもで
きるのかはわかりませんが、200kgのおもりを持ち上げてる重量挙げの選手は400/−
になってるってぇじゃ、ありませんか。うちのカミさんも、あたしの朝帰りを見つけたときにぁ
顔を真っ赤にして、額んとこにぁ、青筋立てて、あと黄色もあれば、信号機なんでしょうけ
ど、怖いったらありゃしなかったね。あん時は、血圧高かったんでしょうねぇ。

 そんなわけで、血圧ってもんは、測るときや、測り方で随分と変わるもんなんですなぁ。
世界保健機構(WHO)って言う、まぁ、世界の保健所みたいなお役所で決めた血圧の測
り方って言うと、西洋人のように椅子に座って、心の臓とおんなじ高さに血圧計を置いて、
右のひじの内側のポクポク触れるところで測るんだそうですな。しかも、10分位はおとな
しく座ったあとじゃなきゃならないそうで。茶道みたいにしきたりがあるようですが、これも
やっぱりわけがあって、あぐらや正座をすると、足の血液が心臓のほうにチュウーっと、搾
り出されたような具合になって、心臓から送り出される血液が増えて、血圧があがるそう
ですな。おや、眉に唾をつけるのは、信じてないときにするもんですよ。なんなら、ご自分
でやって御覧なさい。とくに、下の血圧が上がるようですから。こうして測った血圧を、カレ
ンダーにでもつけてみると良いようですよ。一度や二度、高くても気にすこたぁございませ
ん。何回もつけてみて、全体に高いようだなと思ったら、高血圧ですね。140/90以上が
高いねぇという基準のようなものですな。

 3日くらい続けてみて、やっぱり高いやって言うときに、“こりゃ、高血圧だなぁ”、という
ことになります。160/95よりも高いんじゃなけりゃ、なにも慌てることはありませんよ。だ
からって、ほっといてもいけないんですけどね。血圧って言うのは、ある日、突然ポンッと
高くなるわけでもないんで、いつから薬を煎じて飲むか迷いますねぇ。迷っちゃうから、考
えないことにするってわけにも行かないんで、どうしましょ?あたしが、困っちゃしょうがな
いですが。まずは、とりあえず、しょっぱいもんえお食べないことにでもしましょうか。“とり
あえず”は、ようござんしょ。ねっ。近頃の日本人は、結構、健康にうるさくなってしまって、
昭和の初めの頃でしたら、塩味の良く効いた梅干やらタクアンやら食べてましたけどね。
近頃は、ぜいろく好みの(関西からのヒトがいたら御免なさいよ)薄味で、どうもピリッとこ
ないねぇ。当時の食事だと、一日に塩を15〜16g摂ってたんですが、近頃は、トンと減っ
て、13gくらいですかねぇ。南の島のトンガでしたっけねぇ、一日の塩の量が、1〜2gで、
タロイモばかり食べてる方たちは、高血圧にならないし、あたって半身麻痺って言う人も
あまりいないらしいですな。これは、まぁ、極端な話でしたが、日本の国で考えてみるって
ぇとぉ、昔は東北地方では、漬物を一日中食べてて、高血圧は多いし、脳梗塞も多い地方
でした。だけど近頃では、かなり減塩が進んで脳卒中もグッと少なくなっております。そう
は、言ってもやっぱり濃い口のお人がいっぱい居ますもんで、全国平均の塩の摂取量より
10%ばかし余分に塩気を摂ってますね。で、はなから薄口の関西人て言う人たちは、全
国平均より10%少なくしか塩気を摂らない。で、どうなるかってぇと、お察しの通り、高血
圧の薬は、東北地方で良く処方されるということで、奥の細道を薬問屋が往くってことに、
あいなります。こういう塩気をいっぱい摂って、血圧が上がったのを、食塩感受性高血圧
申します。

病院て言う所は、なんとも消毒臭くって、ひんやりした雰囲気のいやぁな気持ちになりそうだと、思ってやしませんか?白衣を着て、いかめしい顔をしたお医者さんが、なんとも怖くてねぇ。まぁ、そんなのは昔の話なんですけど、やっぱり、イメージってのがあって、病院に行くと注射をされる、痛いよー、嫌だよ−ってね。子供の頃の思い出が、フーっとよみがえってきますね。だからか、お年寄りに多いのですが、白衣を来た多いのですが、白衣を来たお医者の前で血圧がギューっと
上がる白衣高血圧って言うものもありますな。それだけなら、病院を避けてりゃ済む話なんですが、こういう御仁は緊張しやすい性格なんでしょうか、人に会ったりしてる時に、これが知り合いのなかよしじゃあなかったりすると、キューっと血圧が上昇、脈はドキドキ。用が済んだ途端に急降下ってのを繰り返すことになります。何が起こるかってぇと、血圧が上がっていくときって言うのは、心の臓がバッコンバッコン血を送り出してる上に動脈がキューッと縮んで締め上がるように、神経からカテコラミンて言うホルモンが出て来るそうでして。こいつが、血管や心臓にパラパラッて振りかけられるとバッコンバッコンのキュウーッてなるようですな。最初のうちは、山寺で修行したり、緊張をほぐすような安定剤を飲んでみるのもいいようですが、こんなことを繰り返しているってぇと、心臓は肥大、血管は硬化して、いつも血圧が高い様になる。これで、高血圧の出来上がりってなもんですよ。気の利かないのは、だめですが、気の利きすぎるってぇのも困りもんですな、ハイ。

今の話とは反対になりますが、お医者の前に出るってぇと、ほっとするんでしょうか、朝あんなに高かった血圧が嘘のように下がってしまうという御人も居りますですねぇ。所詮、診療所で測る血圧は、その時だけの血圧ですから、他の時に高い人なんざぁ見逃されちゃうってことですな。若い目の方たちに多いようですが、なかなか、こんな人には巡り会うもんじゃあ、ありません。百人のうちのニ〜三人ッてぇとこでしょう。マスクッド ハイパーなにやらって言うらしいですが、本来は、被覆し隠された高血圧が本当なのにねぇ、訳すときに、仮面高血圧に変わってまして、昔の映画の題名もそうでしたが、うまいこと言い換えてますなぁ。

 お宅はなかなか健康問題にお詳しいようにお見受けしましたが、やっぱり、NHKの“健康相談”なんかが、お気に入りの番組だったりするんでしょうねぇ?えっ、“あるある大辞典”のほうですか、なるほどねぇ。いまや日本中“一億総健康オタク”だったりしますが、チョットネ、納豆で血をサラサラにする前に、血管に細いところが出来ないように血圧のことも教えてくれればなぁ、なんてね、思いますですよ。

 でね、血圧のことなんですけれども、一日中血圧が同じじゃないってことはご存知ですよね。ハイ、失礼しました。じゃ、どうなるかってぇと、朝日が昇り、もうチョッと寝てたいなぁ、って時分に血圧は少しずつ高くなってきます。起きて、活動的になる準備ってやつですね。それから、チョッとずつ、上がり続けて、昼ご飯でお腹も一杯になると、今度は眠たくなりますな。その頃に、少しだけ、血圧は下がりますねぇ。眠気もとれてくると、血圧も少し持ち直して、高くなりますな。おあとは、晩御飯を食べて、一寸一杯ひっかけえの、たまらず、もう一杯なんてやってるうちに、下がり始めて、寝込むと一段と血圧低下してくるってぇ寸法ですな。マア、これが血圧の日内変動って言われてる波みたいな血圧変化なわけですよ。


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